写真集『神田川』
A5判 46ページ 2023年 私家版 頒価 1,000円
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神田川を撮ろうと思ったきっかけは何だっただろう。2022年のまだ暑い秋晴れの日に、井之頭公園にある湧水井戸に向かった。神田川の源流、井之頭池に流れ込んでいる湧き水だ。思い出すのは、吉祥寺にあるアートスクールに通っていた頃、クラスメートたち数人と夜中に裸になって、この湧き水で水浴びをしたことだ。しばらくすると警官がやって来た。女性もいたからか、警官は橋の上から口頭で注意しただけですぐに立ち去った。何十年か振りに意識して見る湧水井戸は橋からすぐ近くにあった。水浴びをしていた時は、夜だったせいか、若かったせいか、もうすこし橋から隠れた場所だと思っていた。この井之頭池での出来事は、ぼくの浮き草のような人生の始まりだったのかもしれない。
井之頭池から下流に向かって歩く。京王井の頭線「井之頭公園駅」の下にある三角広場の夕焼け橋より先は、両岸がコンクリートで固められ、柵で隔たれた川に降りることは出来ない。川の両脇には民家が建ち並んでいる。脳裏に流れてきたのは、フォークグループ、かぐや姫の「神田川」だ。そんな景色を映画で見た覚えがあるので、映画の「神田川」も観たのだと思うが、あらすじさえ思い出せない。気になって、帰りに荻窪のブックオフに寄ってみるが、「神田川」は置いていなかった。アマゾンでDVDを注文して観る。どうやら、雑誌かなにかで紹介記事を読んだ記憶が残っていて、観た気になっていたようだ。初めて観る「神田川」は、とても悲しい映画だった。この映画を観たことで、記録として撮るつもりだった写真に記憶が重なり、「追憶に欲情をかきまぜたり(T・S・エリオット『荒地』)」することになった。
神田川は東京都三鷹市にある井之頭池の湧水を源として、杉並区、中野区、新宿区、豊島区、文京区、千代田区、台東区を横断し、両国橋付近で隅田川と合流する、全長24・6㎞の一級河川である。 東京・荻窪にて